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「今は少ない店舗だからこの対応策でもいいが、店が多くなったらそんな人海戦術のようなことはできないだろう。 それなら今のうちに正月でも商品を配送してもらえるように取引先にお願いして、持ってきてもらったらいいのではないか」。
幹部らは手分けして取引先を回ったが、なかなか色よい返事をもらえず、話し合いはまとまらなかった。 幹部が音を上げてもSは自分の意見を譲ることはなかった。
「新しい流通の考え方、システムを作っていくためには最初から駄目だというのはおかしい」と幹部らにハッパをかけ続けた。 流通業界の商慣習に照らし合わせれば、いくらSの指示といえども「取引先は動くことはない」と先入観を持ってしまい、行動しなかっただろう。

しかし、創業時の素人集団は愚直に取引先の説得を繰り返した。 その先頭に立ったのはY堂から転籍した商品部長のIだった。
Iは商社の蝶理からY堂に転職し、労働組合専従として会社側と口角泡を飛ばし、労働条件改善などの交渉をする最前線にいた。 Y堂では小売りの現場に立つことは無く、小売りのプロではなかった。
Y堂で人事担当もしていたSは、議論好きで交渉上手なIをSに転籍させた。 Iは取引先との交渉役として打って付けの人材と見たからだった。
組合幹部としてのIはすでにY堂に復帰する場所はなく、その時にSからS入りを薦められたのだ。 Iは取引先を回り、Sの将来性について話した。
「今は小さな取引量でも、ゆくゆくは大きなボリュームとなりビジネスになる」と言い続けた。 最初は到底無理と言って取り合わなかった取引先も徐々に軟化し、協力要請を受け入れる取引先も現れた。
取引先の中には労使協定の関係で管理職がわざわざ年末年始に出勤し、S向けに商品を配送してくれるところもあった。 年を追うごとに正月営業を理解する取引先が増えていき、76年にはパンや総菜類など毎日製造する商品でも正月配送が実現した。
鮮度の良い商品が消費者に提供できるようになった。 Sのホームページで店舗検索のために目的地付近の郵便番号を入力すると、パソコンの画面にはおびただしいほどの「S」の店舗が表示される。
半径2.5キロの範囲内が30店程度の「S」の目印で埋め尽くされる地区が大半だ。 Sの出店戦略は極めて明快である。
同一地域に集中して大量出店する。 これをドミナント(太密度多店舗出店)方式と呼んでいる。
同一地域に「S」が多数あることで、消費者への認知度が上がり、ストアロイヤルティー(店舗への支持)もだからだ。 このドミナント戦略は創業当時から今も変わらずに続いている。


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